相続した土地を使う予定がなく、売れそうにもない。そんなときの受け皿が、土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」です。向くかを確かめる順番と、費用・期間を判定表つきでまとめます。
結論:建物・担保・境界の3つが片づいた土地なら申請できる。費用は1筆14,000円と負担金
この制度で国に引き取ってもらえるのは、次の条件をすべて満たす土地です(法務省、2026年10月確認)。
- 相続か、相続人への遺贈で取得した土地:2023年4月27日の制度開始より前の相続も対象です。
- 申請の時点で、建物・担保権・境界の争いがない:建物があれば取り壊し、抵当権の登記があれば消してから申請します。
- 管理に手間やお金がかかりすぎない:危ない崖、放置された車、管理が要る樹木などがあると、審査で認められません。
お金は2段階です。申請時に、土地1筆(登記上の1区画)ごとに審査手数料14,000円を納めます。承認されたら、10年分の管理費に当たる「負担金」を納めます。負担金は原則20万円で、市街地の宅地や一部の田畑、森林は面積に応じて高くなります。申請から結論までの標準的な期間は8か月です(法務省、2026年10月確認)。
ただし、売れる見込みやもらい手がいるなら、先にそちらです。
相続全体の期限の並び(相続放棄の3か月、相続登記の3年など)は、実家の相続手続き、期限の順番は?3か月から3年・空き家売却までにまとめています。この記事は、その中の「土地を手放す」場面だけを掘り下げます。
申請できるかは、どの順番で確かめる?
法務局に相談する前に、書類と現地で3つを確かめます。
手順1:誰が、どうやって取得した土地か
申請できるのは、相続か相続人への遺贈(遺言で財産を譲ること)で土地を取得した人です。売買で取得した人や、相続で土地を取得できない法人は、基本的に使えません。共有の土地は、共有者全員で申請します。共有者の中に売買で持分を買った人がいても、相続で取得した共有者がいれば使えます(法務省、2026年10月確認)。
手順2:登記事項証明書で、担保権と筆の数を見る
登記事項証明書(法務局で取れる土地の記録)の「権利部(乙区)」に抵当権などがないかを見ます。借金を返し終わっていても、抵当権の登記が残っていれば申請できません。先に登記を消します。あわせて、土地が何筆に分かれているかを数えます。審査手数料は1筆ごとにかかり、まとめて申請しても安くなりません(法務省、2026年10月確認)。
手順3:現地で、建物・物・境界・通り道を見る
建物、物置や塀、放置された車、手入れが要る木がないかを見ます。登記のない小屋でも、建物があれば申請できません。境目が現地で分かり、隣の人と認識が合っているか、近所の人の通り道や水路になっていないかも確かめます。
自分の土地は向く? 判定表で一つずつ当てる
引き取れない土地には2種類あります。申請の入口で受け付けられない「却下」と、審査の結果で認められない「不承認」です。下の表で、当てはまる行がないかを上から確かめてください。
| 確かめる項目 | 当てはまると | 申請の前にできること |
|---|---|---|
| 売買など、相続・遺贈以外で取得した | 使えない | 売る・譲る方法を考える |
| 共有者の一人でも反対している | 申請できない | 全員の同意をとる |
| 建物がある(登記がなくても) | 却下 | 取り壊してから申請する |
| 抵当権や、賃借権など人に使わせる権利が設定されている | 却下 | 権利と登記を消してから申請する |
| 人が通る道・水路・ため池・墓地・境内地になっている | 却下 | その部分を分筆し、残りで申請を検討 |
| 土壌が汚染されている | 却下 | 法務局に相談する |
| 境界が分からない・隣と争いがある | 却下 | 土地家屋調査士に相談し、境界を確かめる |
| 勾配30度以上・高さ5m以上の崖があり、管理が大変 | 不承認 | ほかの手放し方を先に考える |
| 地上に工作物・車・管理が要る木がある | 不承認 | 撤去・伐採してから申請する |
| 地下に、取り除かないと使えない物がある | 不承認 | 撤去の見積もりをとる |
| 隣の人と裁判をしないと管理できない(通行や使用を妨げられている) | 不承認 | 先に隣と話をつける |
| 土砂崩れなどの対策工事が要る・獣や害虫の被害がある | 不承認 | 軽いものなら相談の余地あり |
| 手入れされず、国が整備し直す必要がある森林 | 不承認 | 森林の状態を事前相談で伝える |
| 国が管理費以外のお金を法令に基づいて払うことになる | 不承認 | 事前相談で該当するか確かめる |
| どれにも当てはまらない | 申請に進める | 法務局(本局)の事前相談を予約する |

「却下」の行は、取り壊し・登記の抹消・境界の確認など、申請前に片づけられるものが多くあります。「不承認」の行は撤去費がかかったり、土地の形で決まったりします。片づける費用が大きくなりそうなら、ほかの方法と比べてから決めます。
費用はいくら? 手数料・負担金と、その前にかかるお金
制度そのものに払うお金は、審査手数料と負担金の2つです。審査手数料は1筆14,000円で、却下・不承認になっても、途中で取り下げても戻りません(法務省、2026年10月確認)。
負担金は地目(登記上の使い道)で決まり方が違います。宅地と田・畑は原則20万円で、市街化区域・用途地域の宅地や、市街地・農用地区域などの田・畑は面積で計算します。森林は面積で、雑種地・原野などは一律20万円です。法務省の資料の概算例では、面積で計算する宅地は100㎡で約55万円、200㎡で約80万円です。田・畑は500㎡で約72万円、1,000㎡で約110万円です。森林は1,500㎡で約27万円、3,000㎡で約30万円です(法務省、2026年10月確認)。正確な額は、法務省の「負担金自動計算シート」で出せます。
隣り合う2筆以上が同じ種目なら、1つの土地とみなして負担金を計算するよう申し出られます。法務省の例では、市街化区域外の宅地100㎡が2筆の場合、別々なら40万円、まとめれば20万円です(法務省、2026年10月確認)。なお、2023年度末までの実績では、負担金の多くは最低額の20万円でした。宅地の最大は1,778,000円、農地の最大は2,583,000円です(法務省 政策評価書、2026年10月確認)。
見落としやすいのは、取り壊し・登記の抹消・測量・伐採や撤去など、申請前にかかるお金です。土地ごとに大きく違うので、制度の費用と足した総額で見積もってから決めます。固定資産税は毎年1月1日の所有者にかかります。国への名義の移転が1月にずれると、翌年分も申請者が払うことがあります(法務省、2026年10月確認)。
申請の流れと期間は? 承認後30日の期限に注意
- 事前相談:土地のある都道府県の法務局・地方法務局の「本局」に予約して相談します。支局・出張所では受け付けていません。相談は1人1日1回30分以内です(法務省・大阪法務局、2026年10月確認)。
- 申請:申請書に、土地の位置と範囲の図面、境界点と土地の形状の写真、印鑑証明書を添え、窓口か郵送で出します。名義が親のままなら相続を証する戸籍なども要ります(法務省、2026年10月確認)。
- 審査:書類の審査と、必要なら職員の現地調査があります。標準処理期間は8か月で、事案によっては超えます(法務省、2026年10月確認)。
- 承認と負担金の納付:承認の通知が届いた日の翌日から30日以内に、納入告知書で日本銀行(代理店を含む)に納めます。共有なら代表者が一括で納めます(法務省、2026年10月確認)。
- 国に帰属:納めた時点で、土地は国のものになります。
30日以内に納めないと承認は失効し、最初から申請し直しです。承認の前に負担金を用意しておきます。審査中に申請者が亡くなったときは、土地を相続した人が亡くなった日から60日以内に届け出れば、手続を続けられる場合があります。申請後に土地を売る話が決まったら、売る前に取り下げます(法務省、2026年10月確認)。
却下・不承認はどれくらい? 多い理由は何か
法務省の速報値(2026年9月30日現在)では、申請6,125件に対して、国に帰属したのが3,231件です。却下は86件、不承認は103件で、取下げが1,162件ありました(法務省、2026年10月確認)。
- 却下で多い理由:添付書類が出ていない37件、境界が明らかでない23件、現に通路として使われている22件、申請の権限がない11件
- 不承認で多い理由:地上に工作物・車・樹木などがある49件、国の追加整備が要る森林37件、国が管理費以外のお金を負担する12件、災害対策が要る11件
- 取下げの内訳:活用の見込みが出た595件、却下・不承認になると分かった415件、その他152件
却下・不承認になると分かって取り下げた人は、却下と不承認の合計の2倍以上います。事前相談で判定表の行を確かめておく意味があります。また取下げの約半分は「活用の見込みが出た」ものです。申請をきっかけに使い道や引き取り手が見つかることもあります(法務省、2026年10月確認)。
売る・譲る・相続放棄と、どこで分かれる?
分かれ目は「時期」「手放す範囲」「お金の向き」です。
- 売る・隣の人に譲る:負担金がかからず、期限もありません。相手が見つかるなら、まずこちらです。
- 相続放棄:相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申し出ます。費用は収入印紙800円分と郵便切手です。土地だけは選べず、一切受け継ぎません(裁判所、2026年10月確認)。放棄の時に家を現に占有していた人は、引き渡すまで保存の義務が残ります。鍵を持っている、荷物を置いているといった場合は占有に当たる可能性があります(国土交通省・総務省、2026年10月確認)。
- 相続土地国庫帰属制度:期限はなく、相続から何年たっていても使えます。ほかの財産は受け継いだまま、土地だけを手放せます。代わりに、手数料・負担金と、申請前の片づけ費用がかかります。
3か月を過ぎたら相続放棄は選べないので、売る・譲るを試し、だめなら国庫帰属の順です。3か月以内で、借金が多いなど全部を手放してよいなら、相続放棄も比べます。
次の一手:法務局や専門家に相談する前に、何をそろえる?
判定表で引っかかった行によって、相談先が変わります。境界なら土地家屋調査士、抵当権や相続の登記なら司法書士、取り壊しや撤去なら解体業者の見積もりです。どの相談でも、次のものがあると話が早く進みます。
- 登記事項証明書(全部の筆の分)と、法務局の地図・地積測量図
- 固定資産税の納税通知書(課税明細書)
- 現地の写真(土地全体、境界の目印、建物や木、道との接し方)
- 判定表で当てはまった行のメモ
査定もあわせてとると、売る場合と総額を並べられます。相続の期限を含めた全体の進め方は、実家の相続手続き、期限の順番は?で確かめられます。
よくある質問
Q. 実家の建物を壊す予定です。壊す前に申請できますか?
原則として、取り壊してから申請します。申請の時点で建物があると却下されます。申請後すぐに壊す予定がある場合は、申請先の法務局本局に問い合わせるよう法務省が案内しています(法務省、2026年10月確認)。
Q. 親の住宅ローンは完済しています。抵当権はそのままで大丈夫ですか?
登記が残っていれば申請できません。完済していても、抵当権の登記を消してから申請します(法務省、2026年10月確認)。
Q. 山林や農地でも申請できますか?
どちらも申請できます。森林は面積で負担金を計算するため、20万円を超えることがあります。市町村の森林経営管理権が設定された森林は、先に解除しないと申請できません。手入れ不足で国の整備が要る森林は不承認になります。農地は、市街化区域などにあると面積で計算します(法務省、2026年10月確認)。
同じテーマで、あわせて確かめておくと判断しやすくなる記事です:相続登記の義務化、期限はいつまで?状況別の早見表と間に合わないときの手/相続空き家の3000万円控除の条件|期限・耐震・確認書をチェック
まとめ:判定表で「却下」の行を片づけ、総額で比べてから申請する
- 使えるのは、相続・相続人への遺贈で取得し、建物・担保権・境界の問題がない土地
- 費用は1筆14,000円(戻らない)と負担金(原則20万円、市街地の宅地などは面積で増える)
- 標準8か月の審査のあと、承認通知の翌日から30日以内に負担金を納める。過ぎると失効
- 申請前の片づけ費用を足した総額で、売る・譲る・相続放棄と比べる
参考情報・出典
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要(申請の手引き・申請書・添付書類)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00459.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(2026年9月30日現在の速報値) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html
- 法務省「相続土地国庫帰属法の要件・負担金の概要」(PDF) https://www.moj.go.jp/content/001396637.pdf
- 法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」(令和8年9月版、PDF) https://www.moj.go.jp/content/001444016.pdf
- 法務省「令和6年度 政策評価書(相続土地国庫帰属制度)」(PDF) https://www.moj.go.jp/content/001419858.pdf
- 大阪法務局「相続土地国庫帰属制度」 https://houmukyoku.moj.go.jp/osaka/souzokutoti.html
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 国土交通省・総務省「相続放棄者の空き家の管理責任の考え方について」(2023年3月31日、PDF) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001711895.pdf
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