相続した親の家を売ろうか迷っている。そのときに使えるのが「相続空き家の3,000万円特別控除」です。売って出たもうけ(譲渡所得)から最大3,000万円を引ける制度です。条件を順にたどるチェックリストと判定図で、自分の家が対象かを確かめられるようにしました。
結論:「建てた年」「売る期限」「空き家のままか」の3つで大半が決まる
正式な名前は「被相続人(亡くなった人)の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。次の3つにすべて当てはまれば、対象になる見込みが高くなります(国税庁、2026年10月確認)。
- 家が昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられている。マンションのような区分所有の登記がある建物は対象外です。
- 期限内に売る。「相続の日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」で、制度の期限の2027年(令和9年)12月31日までの売却が必要です。
- 相続してから売るまで、誰も住まず、貸さず、事業にも使っていない。亡くなる直前は一人暮らしだったことも条件です。
ほかに、売る前か後の「耐震工事か取り壊し」、売却代金1億円以下、市区町村の「被相続人居住用家屋等確認書」と確定申告が要ります。家と土地を相続した人が3人以上いると、1人あたりの上限は2,000万円に下がります(国税庁、2026年10月確認)。
いつまでに売ればよい?相続の年で期限を確かめる
期限は2つあり、早いほうが自分の期限です。1つ目は相続ごとの期限で、ふつうは亡くなった年に3を足した年の12月31日です。2つ目は制度の期限で、2027年12月31日までの売却が対象です(国税庁・国土交通省、2026年10月確認)。
| 亡くなった年 | 相続ごとの期限 | 今の法律で売れる期限 |
|---|---|---|
| 2022年(令和4年) | 2025年12月31日 | すでに過ぎた |
| 2023年(令和5年) | 2026年12月31日 | 2026年12月31日 |
| 2024年(令和6年) | 2027年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 2025年(令和7年) | 2028年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 2026年(令和8年) | 2029年12月31日 | 2027年12月31日 |
見落としやすいのは、2025年以降に亡くなった場合です。今の法律では、2027年末を過ぎた売却は対象になりません。国土交通省は「令和9年度税制改正要望」で、この期限を2031年(令和13年)12月31日まで4年延ばすよう求めています(財務省掲載の国土交通省要望書、2026年10月確認)。要望は決定ではないので、今は「2027年末まで」を前提に段取りを組むのが安全です。
なお、相続放棄の3か月、相続税の申告の10か月、相続登記の3年など、相続のほかの期限との順番は、柱の記事「実家の相続手続き、期限の順番は?3か月から3年・空き家売却まで」にまとめています。この記事は、その最後にある「空き家を売るときの控除」だけを詳しく見ます。
家と使い方の条件は?登記と住民票で確かめる
家の条件は、書類を見れば多くが分かります(国税庁、2026年10月確認)。
- 建てた日:昭和56年5月31日以前。登記事項証明書(法務局で取れる不動産の記録)で新築の日付を見ます。
- 区分所有でない:マンションや、区分所有の登記がある二世帯住宅は対象外です。
- 一人暮らしだった:亡くなる直前に、ほかに住んでいた人がいないこと。
- 家と土地の両方を相続した:家だけ、土地だけを相続した人は使えません(東京国税局の確認表、2026年10月確認)。
老人ホームなどに入っていた場合も、条件を満たせば対象になります。入る直前に要介護・要支援の認定などを受けていたこと、入ったあとも家財を置くなどして使い、人に貸していないことなどが条件です(国税庁、2026年10月確認)。親族の家や一般の賃貸住宅に移って亡くなった場合は対象外です(国土交通省、2026年10月確認)。
相続のあと親族が住んだり、駐車場として貸したりすると、対象から外れるおそれがあります。
耐震か取り壊しか?買主に任せるときの日程の落とし穴
古い家をそのまま売るだけでは使えません。売り方は大きく3つです(国税庁、2026年10月確認)。
- 売る前に耐震工事をして、家と土地を売る。売る日の前2年以内に調査された「耐震基準適合証明書」などを申告に付けます。
- 売る前に取り壊して、更地を売る。耐震の証明書は要りません。
- 家付きのまま売り、買主があとで耐震工事か取り壊しをする。2024年1月1日以後の売却が対象で、工事は売った年の翌年2月15日までに終える必要があります。
3つ目は売主が解体費用を先に払わずに済みますが、日程がきつくなりがちです。工事の期限は翌年2月15日、確定申告の期限は原則3月15日です。確認書は、工事後の書類(取り壊したなら建物の「閉鎖事項証明書」など)をそろえてから申請し、新潟市では交付まで通常2週間程度、1月以降は3週間程度かかります(新潟市、2026年10月確認)。2月15日ぎりぎりに工事が終わると、申告に間に合わないおそれがあります。
国土交通省は、買主の協力が欠かせないとし、工事をせずに証明書だけ取っても条件は満たさないと説明しています(国土交通省、2026年10月確認)。契約の前に、工事を終える時期(たとえば売った年の年末)と、工事後の書類を渡してもらうことを書面で決めておくと安心です。
控除はいくらまで?相続人の数と1億円の数え方
上限は1人3,000万円です。ただし2024年1月1日以後の売却で、相続人が3人以上いる場合は1人2,000万円になります(国税庁、2026年10月確認)。ここでの人数は、法定相続人の人数ではありません。家と土地の両方を相続で取得した人の数です。片方だけを取得した人は数えません(杉並区のパンフレット、2026年10月確認)。きょうだい3人が相続人でも、家と土地を2人が取得したなら2人です。
売却代金1億円以下は合計で判断し、分けて売った分や、ほかの相続人が売った分も足します。あとで1億円を超えたら、その売却の日から4か月以内に修正申告が要ります(国税庁、2026年10月確認)。特例を使う人は、ほかに家や土地を取得した相続人に、売ったことと日付を知らせる決まりもあります(東京国税局の確認表、2026年10月確認)。
親子や夫婦など特別な関係の人に売った場合は対象外です。相続税を払った人が使える「取得費の加算の特例」とは、どちらか一方しか使えません(国税庁、2026年10月確認)。
判定:自分の家は対象?条件を順にたどる
条件を順にたどれる形にまとめました。どこかで「いいえ」なら使えない見込みです。

相続空き家の3,000万円控除 チェックリスト(印刷用)
上から順に□に印をつけます。
1. 期限
- □ 亡くなった年+3年の12月31日までに売る(どの日を売った日とするかは税務署で確認)
- □ その日が2027年12月31日より後なら、2027年末までに売る
2. 家
- □ 昭和56年5月31日以前の建築(登記事項証明書で確認)
- □ 区分所有の登記がない(マンションではない)
- □ 亡くなる直前は一人暮らし(老人ホーム入所なら要介護認定などの条件も)
- □ 家と土地の両方を相続で取得した
3. 使い方
- □ 相続から売るまで、住まない・貸さない・事業に使わない
4. 売り方(どれか1つ)
- □ 売る前に耐震工事(証明書は売る日の前2年以内の調査)
- □ 売る前に取り壊して更地で売る
- □ 買主が翌年2月15日までに耐震工事か取り壊し(2024年以後の売却。契約で時期と書類の受け渡しを決める)
5. 金額と相手
- □ 売却代金は相続人全員の分を足して1億円以下
- □ 買主は親子・夫婦・同族会社など特別な関係の人ではない
- □ 家と土地を取得した人数を数えた(3人以上なら上限1人2,000万円)
- □ 取得費の加算の特例と、どちらを使うか決めた
6. 書類と申告
- □ 市区町村に「被相続人居住用家屋等確認書」を申請(交付まで2〜3週間の例)
- □ ほかに家と土地を取得した相続人に、売ったことと日付を知らせる
- □ 売った年の翌年に確定申告(申告して初めて使える)
出典:国税庁ほか(2026年10月確認)。最終判断は税務署・税理士へ。
確認書はどう取る?申告までの順番
確認書は、亡くなる直前の一人暮らしや、売るまで空き家だったことを、家がある市区町村が証明する書類です。売ったあとに、相続人1人ごとに1組の書類で申請します。自治体のサイトで「空き家 3000万円 確認書」と調べると、申請書と手引きが見つかります。
新潟市の手引きで求める主な書類は次のとおりです(新潟市、2026年10月確認)。細かな違いは各自治体の手引きで確かめてください。
- 亡くなった人の住民票の除票の写し
- 相続人全員分の住民票の写し(売った日以降に取ったもの)
- 売買契約書の写し(全ページ)
- 家と土地の登記事項証明書(取り壊した場合は家の閉鎖事項証明書)
- 電気・水道・ガスの使用中止日が分かる書類、または不動産会社による「現況空き家」と書いた売買広告
- 耐震工事や老人ホーム入所の場合は、その証明書や契約書の写し
電気・ガス・水道の使用中止の書類は、あとから取り寄せると手間がかかります。解約したら日付の分かる明細を保管しておきましょう。
確認書が届いたら、売った年の翌年の確定申告(原則2月16日から3月15日まで。年により日付がずれます)で、所轄の税務署に申告します。譲渡所得の内訳書、確認書、売買契約書の写しなどを付けます(国税庁、2026年10月確認)。控除でもうけがゼロになる場合も、申告をしないと特例は使えません。
次の一手:専門家に相談するなら何を準備する?
判定で「はい」が続いたら、税理士や不動産会社と段取りを詰めます。次の4点をそろえておくと話が早く進みます。
- 家と土地の登記事項証明書(建てた日と、誰が相続したかが分かる)
- 亡くなった日と、亡くなる直前の住まい(老人ホームなら入所契約書)
- 相続してからの使い方のメモ(住んだ・貸した人がいないか、電気・ガス・水道の解約日)
- 亡くなった人が家と土地を買ったときの契約書や領収書
不動産会社には「この特例を使いたい」と最初に伝え、買主に取り壊しを任せるなら工事の時期を契約に入れられるか聞きましょう。税理士には、取得費の加算の特例との比べ方を聞くと、手取りの見通しが立てやすくなります。相続全体の期限と照らし合わせたいときは、実家の相続手続きの期限の順番から確かめてください。
よくある質問
Q. 売るまでの間、片付けのために泊まったら対象外になりますか?
どこからが居住にあたるかは事情で変わるため、ここでは言い切れません。迷う場合は申告前に税務署へ相談してください。
Q. 相続人が4人いますが、家と土地は1人が相続しました。上限はいくらですか?
人数は家と土地の両方を取得した人で数えるので、この場合は1人です。上限は3,000万円になります(杉並区のパンフレット・国税庁、2026年10月確認)。
Q. 買主が翌年2月15日までに取り壊してくれなかったら、どうなりますか?
2月15日までに耐震基準に合うか取り壊されていないと、この方法の条件を満たしません。契約の前に、余裕のある工事の時期を書面で決めておくことが大切です。
Q. 2025年に亡くなった親の家です。2028年に売っても使えますか?
今の法律では2028年の売却は対象外です。国土交通省は2031年末までの延長を求めていますが、決まってはいません(財務省掲載の国土交通省要望書、2026年10月確認)。
同じテーマで、あわせて確かめておくと判断しやすくなる記事です:相続登記の義務化、期限はいつまで?状況別の早見表と間に合わないときの手/相続土地国庫帰属制度の条件と費用|使えない土地の判定表と申請の流れ
まとめ:期限から逆算して、売る前に段取りを決める
- 対象は、昭和56年5月31日以前に建った一人暮らしの家を、家と土地ごと相続し、空き家のまま売った場合。
- 期限は「亡くなった年+3年の年末」と「2027年12月31日」の早いほう。2025年以降の相続は2027年末が実際の期限です。
- 買主に取り壊しを任せるなら、工事の時期を契約で早めに決める。
- 上限は1人3,000万円。家と土地を取得した人が3人以上なら1人2,000万円。売却代金は合計1億円以下。
- 確認書をもらい、翌年の確定申告で使う。
参考情報・出典
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm (2026年10月25日確認)
- 国税庁「No.3307 被相続人居住用家屋の範囲(老人ホーム等に入所していた場合)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3307.htm (2026年10月25日確認)
- 東京国税局「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用要件の確認表(令和6年分)」 https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/check/r06/pdf/16.pdf (2026年10月25日確認)
- 国税庁 質疑応答事例「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(相続人が3人以上の場合)」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/18/21.htm (2026年10月25日確認)
- 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html (2026年10月25日確認)
- 国土交通省「令和5年度 住宅局関係税制改正概要」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001583606.pdf (2026年10月25日確認)
- 財務省掲載 国土交通省「令和9年度税制改正(租税特別措置)要望事項:空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/mlit/09y_mlit_k_07.pdf (2026年10月25日確認)
- 新潟市「被相続人居住用家屋等確認書 申請の手引き」 https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/jyutaku/akiya/yokusei/akiyatokurei3000.files/tebiki1-1_R070401.pdf / https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/jyutaku/akiya/yokusei/akiyatokurei3000.files/tebiki1-3_R070401.pdf (2026年10月25日確認)
- 杉並区「空き家の譲渡所得3,000万円特別控除」パンフレット(令和6年4月) https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/1847/pamphlet.pdf (2026年10月25日確認)
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